――― 2010年09月10日。『下北沢の年増』 ―――
太平洋戦争中のような、抑圧体制下。自分は出先で何かの検問に引っかかって、持ち物の検査をされた。
すると憲兵みたいな奴が、自分のサイフの中身を見て、『通貨の規制により、いまはこれらのお金は使えない』、のようなことを言い出した。見たら自分の所持金だが、既知の日本の硬貨ではないものだった。
そして『通貨の両替』をしろと言われたので、自分は闇市っぽいマーケットへ向かった。
それが実は、『両替』じゃなくて。その市場でのみ不正規の貨幣が通用するので、何か買い物をして、お釣りとして正規のお金を受け取れ、というのだった。
何かおかしい気がするが、自分は言われたとおりにそこへ向かい、1軒の古びた和風な食事の店に入った。そして、調理場の湯気が顔に当たるようなカウンター席についた。
そして出された料理は、こぶし大のカエルをまるごとゆでたものだった。
出てきたからには、喰えるものなのだろう…いやだけど喰わねばならん気が…と考えて自分は、金属のスプーンをナイフがわりに、カエルの背中に突き立てた。するとかんたんにスパリとカエルの背中の皮は破れ、ぱっくりとそこに口が開いた。
そしてそのカエルの体の中から、生きている小さなカエルが2~3匹、這い出してきた。ゆでられていても、中にまでは熱が通っていなかったらしかった。
さいごに出てきた1匹は、オタマジャクシから変態中らしくて、それだけ色が明るい褐色で、平べったいからだからヒレが出ている、いっそうグロテスクなしろものだった。
それからなぜか、その場の人々の自分に対する待遇が変わって、自分はもっと奥の座敷に通された。そこでは体格のいいおっさんたちが、『ロックとは! フォークとは! 自由なもんなだよお!』などと、酔って気炎を上げていた。
そして中年に近い、感じのいい女性が給仕について、また別の料理をとってくれた。それがまた、大小のまるごとの魚らを、何時間も煮込んだようなしろものだった。この店かこの地方の料理は、ともかく『まるごと』が基本らしかった。
まだしも食えそうな気がしたので、自分は1匹の平べったい魚を口に入れた。まるでおせんべいをかじるように、それを半分口に入れ、喰いちぎった。
目の前の、大きくて真っ黒な鉄の鍋、むかし話の挿し絵で、いろりの上にぶら下がっているようなもの。その中で、いろいろな魚がみそ煮込みになっていた。よく見ると、その鍋の底に、豚肉の切り身のようなものがはりついていた。あまり魚が好きでないので、自分はそれを喰った。
で、さっきから何くれとなく親切にしてくれる、和装の給仕の女性。彼女について、自分が頭の中でネット検索を行うと、『下北沢の“と”』、という情報がヒットした。
『“と”』とは、『年増』を婉曲に言ったことばであるようだった。うまくしてこの女性の気に入られると、飲食の饗応にあずかれるどころか、もっといろいろなサービスを受けられるらしかった。
ではこのまま、流れに身をまかせてもよいのだろうか…と、自分は考えていた。
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